イギリス医療機関に見るIT化と日本医療の未来

イギリス医療機関に見るIT化と日本医療の未来

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イギリスには「NHS」(National Health Service)という国の税金によって成り立つ無料の医療供給サービスがあり、GP(General Practitioner)と呼ばれる家庭医がプライマリ・ケア(身近にあるよろず相談を受けつける医療)を供給しています。

このサービスを受けるには、イギリス人はもちろんですが、外国人であってもイギリスに長期間住む場合は必ず近所のGP診療所に登録をしなければならない義務があります。

登録後、診察を受けるのですが、原則的に医師にアポをとって診てもらいます。近年、多くの諸外国が医療現場におけるネットワーク化が国策として取り組んでいるように、イギリスでも「Connecting for Health」という国家プロジェクトが進められています。

それでは、イギリスではどんなところからIT化が進んでいるのかをご紹介します。

プライマリ・ケアのIT化

イギリスでは、2020年までに3万人のGPと300の病院をネットワーク化し、5,000万人の患者情報の管理と共有をする「電子カルテ」、医師からオンラインで薬局に出す「オンライン処方箋」、患者がネット上で予約する「オンライン病院予約システム」などを実施する予定になっています。

私が診てもらうGPでも既に、オンライン予約、オンライン処方箋、電子カルテ、等がおこなわれています。予約はGPのHPからおこない、処方箋は紙で医師からもらうか、直接オンラインで行きつけの薬局あてに送ってもらっています。

イギリスでは、GPの予約が取りづらいことや(電話はすぐにつながらないことが多い)、思い立ったらすぐに医師に診てもらうということもできないので、このオンライン予約には、我々患者も大変重宝している面があります。

オンライン処方箋

イギリスの大手薬局でやっている「オンライン・ドクターサービス」というものがあります。

これは、各薬局のウェブ上のページで質問に答えて症状を伝えると、GPの処方箋なしでオンライン上で処方箋を出してもらえる、という有料のサービスです。

薬局から薬を48時間以内に受取らなければならないという規定があったり、ネット上の質問はある程度の症状にしか対応していませんが、緊急時や時間、その他の理由で医師に面談することが難しい人には非常に便利なサービスです。

他に、リピート処方箋の需要に対応するための「オンライン処方調剤サービス」というものがあります。患者が薬局のウェブサイトで申し込みをすると、薬局から医師に処方箋のリクエストが送信され、患者はGPに行くことなく迅速に薬を受け取ることができる、というものです。

医療分野の情報共有

現代の日本の医療現場では、医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、作業療法士など、さまざまな分野のスペシャリストが集まってチームをつくり、高度で複雑になったといわれる医療の質を少しでも向上させようと努力しています。

チーム医療という概念では、各メンバーが常に患者の現状を把握しているということが原則なので、チーム内の情報共有は必須です。そこで、患者の状態を知るために欠かせないのが、カルテの共有ということです。電子カルテはこれからのチーム医療の重要なポイントとなるでしょう。

これまでの紙のカルテは、手書きのため、その医師にしかわからない形式で書かれていることもあり、もし他の人間が見て理解できない部分があると、そこで作業が滞ってしまうことがありました。

また、紙のカルテは1つだけしか存在しないので、誰かが使用していると他の部門で閲覧することができないという欠点がありました。

これらの問題は、電子カルテを導入すれば解決します。まず、手書きによる読みづらさが解消されます。難しい専門用語も辞書登録などでわかりやすい言葉に変換できるようになるので、どの部門の人でも理解できるようになります。電子カルテはパソコンやタブレット端末を使うので、いつでもどこでも閲覧できるようになります。チーム医療にとって最も重要な、リアルタイムの情報が共有できるようになるのです。

イギリスではGPとその他のすべての医療機関(プライベートの専門医や病院など)で、患者のデータが共有できるシステムを提案しています。会社が社員の健康維持のためにおこなう健康診断や、NHSの子宮がんや乳がんの検査等、すべてが個人の医療データとして保存され、医師は必要に応じてそのデータを取り出して、診療の参考にすることができるようになります。

日本における電子カルテ導入

医療現場の電子化で情報共有が可能になると、業務一般はもとより、文書管理などのさまざまな面で効率化が図れます。しかしながら、手書きカルテから電子カルテへの劇的な移行については、それがいくら効率的な方法だとはいえ、日本の医師の中には、いささか抵抗感を抱く人も多いようです。

では、日本の医療現場に電子カルテを導入するには、どんな問題点があると考えられるでしょうか。

日本では、年代にもよるでしょうが、キーボード操作やパソコンの扱いも不慣れだという医師がいます。その場合、情報入力に手間がかかり、時間のロスが生じてしまうかもしれないという危惧があるようです。

また、災害時やシステム障害時に、突然、電源が切れた場合の対応をどうするのかが心配だと感じる医師もいるようです。

すべてのデータはパソコンで管理されるため、災害時やシステム障害時には、カルテの情報にアクセスできなくなってしまう可能性があるというのです。さらに、患者の個人情報が漏えいするのではないかという、セキュリティ面に不安を抱くことも多いようです。多方面の複数の端末から情報にアクセスできるため、情報漏えいの危険性があると考えているようです。

電子カルテの問題点に対する解決策

それでは、これらの問題視される点を回避することはできないものなのでしょうか。問題と考えられることがらは、どうやらIT化について誰しもが抱く非常に基本的な疑問や不安のようです。これらの問題点は、一般企業などでおこなわれているセキュリティ対策やリスクマネージメントなどと同様の対応で解決できそうです。

まず、パソコンに不慣れならば、最初に基礎的なPCの操作方法を知り、丁寧に操作することを身につけることから始めます。そうすれば、記入や検索の大幅な効率アップが図れるようになります。

緊急時の対応としては、常にアップデートしたデータバックアップをとり、詳細な障害対策をたてて、災害時でも利用可能な状態に保つことが必要です。セキュリティ対策としては、個人用のパスワード管理を厳重にして、ウィルス対策の強化や利用者のセキュリティに対する理解度を上げるようにすることです。

日本の医療、これから

今、日本の医療現場では、医師数の減少や医師配置の偏在などが起きていて、地域医療の危機が問題化しています。
増加する社会保障給付費で国の財政が逼迫に追い込まれる一方、高齢化社会に向かって生活の質改善が推奨され、今後は、治療のみならず、予防や疾病管理などの医療が必要となってくるといわれています。

医療分野のIT化は、これらの問題を解決し、新たな医療ニーズへ対応していくためにも、その一端を担う要素として、今後より一層期待が高まっていくものと考えられます。

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